輸血による感染は対象外?b型肝炎をめぐる訴訟の歴史と豆知識

b型肝炎は、かつて世界中で猛威をふるい、今もなお多くの感染者が存在する病気です。日本においても、b型肝炎をめぐる裁判闘争が最近まで長年にわたって続けられていました。現在は患者への補償に関する法律も整備され、b型肝炎への社会的な対応が進んできています。

そこで今回は、b型肝炎の訴訟の歴史と基礎知識を解説します。


b型肝炎ってどんな病気?

b型肝炎は、HBVを病原体とする肝臓の病気です。WHOの推計によれば、HBV感染者は世界におよそ20億人いるとされており、とくにアジアとアフリカに多数の感染者がいることが知られています。急性のb型肝炎の場合、感染からおよそ90日後に吐き気や腹痛、倦怠感や疲労感、関節痛などの症状が出てきます。

これらの症状が出た場合、ただちに入院して治療しなければなりません。世界では年間50万人から70万人がHBV感染を原因として死亡していることからも、b型肝炎が非常に危険な病気であることがわかります。すぐに症状が出なくても、慢性のb型肝炎に感染している可能性はあります。

慢性の場合、検査では陽性と診断されますが目立った症状は出ないため、特に不自由なく日常生活を過ごせる人もいます。ただし、将来的に肝硬変などの病気にかかるリスクが上がるため、肝臓への負担をかけるアルコールやタバコを控えたり、脂肪分の多い食事を減らしたりといった制限は欠かせません。

また、症状が出なくてもウイルスを持っていることには変わりないので、他の人に移さないように注意する必要があります。b型肝炎の感染経路としては、輸血や注射針の使い回しによる血液感染と、性交渉などによる感染があります。

血液感染を防ぐための対策には、注射針やカミソリ・歯ブラシなど他人の血液が付着する可能性のある物を使い回さない、血が出た場合はすぐに洗浄して清潔を保つなどの方法があります。また、性交渉による感染を防ぐにはコンドームの着用が不可欠です。

自分がパートナーからHBVを受け取った場合、他の人との性交渉を通じてさらに感染を拡大させてしまう(ピンポン感染)おそれがあります。これを防ぐため、パートナーと一緒に検査を受けておくとよいでしょう。


日本におけるb型肝炎の歴史

日本では、b型肝炎の対策をめぐって国と患者が裁判を闘ってきた歴史があります。1950年前後には当時の厚生省がHBVの血液感染の危険性を把握しており、WHOも集団予防接種などによる感染の危険性を各国に周知していました。

これにもとづいて、注射針の使い回しをしないよう国から各自治体に通知がなされていましたが、この通知が徹底されていなかったため、各地でHBVが蔓延することになります。1980年代後半に至るまでの約30年間にわたってこの状況は継続し、全国で多数のb型肝炎患者が発生しました。

b型肝炎訴訟は、こうした状況に対して国の責任を問い、補償を求める動きです。

最初の訴訟は1989年に札幌地裁で提訴されました。

この裁判では最終的に国の責任が認められ、5人の原告患者に賠償を命じる判決が出されています。しかし国は、原告以外の患者への賠償を拒み、問題を収束させようとしました。こうした対応に怒りの声を上げた患者たちが全国で訴訟を起こし、国に賠償を求めた結果、2011年に国と原告団との和解が成立しました。

和解にあたって結ばれた基本合意では、国が公式に責任を認めて謝罪することや、和解対象者に賠償金を支払うこと、HBV感染に関する真相追求のための調査を行うこと、b型肝炎患者への偏見や差別をなくすために広報・啓発活動に取り組むことなどが約束されました。

翌年の2012年にはこの基本合意に沿うかたちで特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法(以下、特措法)が成立し、患者への正式な補償が進められていくことになります。

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特措法の仕組み

2012年の特措法では、国との和解が成立した患者に対して給付金というかたちで賠償がなされることになっています。和解成立のための裁判手続きは簡素化されており、訴訟のための弁護士費用や検査費用なども一部が国から支給されます。

和解から給付までの期間は約2ヶ月と非常にスピーディであることもこの制度の特徴です。ただし、この制度の効力は施行から10年間に限定されており、当該期間を過ぎると制度にもとづいた裁判手続きはとれなくなってしまいます。

特措法の注意点は、給付金を受け取るためには患者が自ら手続きをとらなければならないため、制度の対象者でも提訴しなければ給付金は受け取れないということです。この制度に該当する患者は全国に45万人ほどいると推計されていますが、現時点での提訴者は約1万5000人ほどで、全体のごく一部に過ぎません。

慢性の場合は症状が出ないため、自分がb型肝炎に感染しており特措法の対象者であることに気づいていない人も多いと推測できます。

輸血による感染は対象外

特措法の対象者は、集団予防接種等によりHBVに感染した患者、および集団予防接種等により感染した母親からの母子感染によりHBVに感染した患者に限られています。国が責任を認めているのは集団予防接種における感染の危険を回避しなかったことであるため、輸血による感染は特措法の対象外となっていることに注意が必要です。

したがって、特措法にもとづいて給付金を受け取るためには、自らがHBVに感染しており、その感染経路が母子感染(集団予防接種でHBVに感染した母親からの感染を除く)や輸血によるものでないことを照明しなければなりません。

b型肝炎について押さえておきたいこと

b型肝炎は、大がかりな裁判闘争も起こされるほど深刻な問題です。油断していると感染してしまう可能性があるため、b型肝炎への感染は未然に防ぐようにしましょう。血液感染の予防やコンドームの使用はもちろん、HBVが蔓延している地域に出張や旅行で行く際には予防接種を受けておくことが重要です。

日本ではHBVの感染率は高くありませんが、地域によってはHBVが流行している場所もあるので、対策は欠かせません。日ごろからHBVの検査を受けておくことも必須です。検査は近所の病院などで受けることができるので、自分が感染していないか確かめておきましょう。

b型肝炎は意外と身近な病気です。自分が感染していなくても周りの人が感染している可能性はあるので、b型肝炎の基礎知識はしっかり押さえ、自分や身近な人が感染していても焦らず対処できるようにしましょう。